【言語聴覚士が教える】ADHDの子どもによく見られる書字の特徴と対応策

こんにちは。寺子屋ゆず代表、言語聴覚士の西村千織です。

今回のテーマは「ADHDのお子さんの書字の特徴」についてご紹介したいと思います。

字を書くことは、思った以上に複雑なスキルを必要とします。

注意力、継次処理(一つずる順序立ててこなす力)、手先の細かい動きのすべてが求められるため、ADHDのお子さんにとっては難しい壁となることもあります。

保護者の方から、「字を書くのを嫌がる」「書いても読めないほど乱れている」といったご相談をいただくことが多いですが、こうした状況には理由があります。

今回の記事では、ADHDのお子さんに見られる書字の特徴と、その背景にある要因を分かりやすく解説します。

また、実際の指導経験を基にした効果的な支援方法もお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

ADHDのお子さんの書字の特徴

ADHDのお子さんの文字には、以下のような特徴が見られます。これらの特徴を理解することで、より効果的な支援方法を考えることができます。

特徴の分類具体的な様子背景にある要因見られやすい場面
文字の大きさ・同じページ内で大きさが変化する
・徐々に大きくなっていく
・文字ごとの大きさにばらつきがある
・注意力の持続の困難さ
・視空間認知の特性
・長文の書き写し
・作文
・テストの記述問題
文字の配置・マス目や罫線からはみ出す
・文字間隔が不均等
・行が傾く
・衝動性
・運動制御の難しさ
・空間認知の特性
・メモを取る
・漢字の書き取り
・宿題プリント
筆圧・極端に強い/弱い
・文字の中で筆圧にムラがある
・一貫性に欠ける
・感覚調整の困難さ
・運動制御の特性
・注意力の変動
・鉛筆での書き取り
・長時間の筆記
・急いでいる時
文字の完成度・書き始めは丁寧
・途中から乱れる
・最後は判読困難
・注意力の持続困難
・疲労の蓄積
・意欲の低下
・長文の書き写し
・テストの最後の問題
・時間制限がある課題
漢字の特徴・部首と他の部分のバランスが悪い
・細部の省略
・似た字との混同
・視覚的記憶の特性
・細部への注意の困難さ
・運動記憶の定着しにくさ
・漢字テスト
・新しい漢字の練習
・作文での漢字使用

文字の大きさの特徴について

最も目立つ特徴の一つが、文字の大きさの不安定さです。

同じページ内でも、書き始めは適度な大きさだった文字が、徐々に大きくなっていく傾向が見られます。

これは、注意力の持続が難しいというADHDの特性が影響しています。


例えば、漢字練習ノートの1ページ目は整った大きさで書けているものの、2ページ目になると文字が大きくなり、マスからはみ出してしまうことがよくあります。

文字の配置の特性

文字の配置にも特徴的な傾向が見られます。

マス目や罫線を意識はしているものの、書いているうちに徐々にはみ出してしまったり、文字と文字の間隔が不均等になったりすることが多いです。


これは、衝動性や運動制御の難しさが関係しています。

特に、急いでノートを取る場面や、時間に追われているときに顕著になります。

筆圧の変動について

筆圧の調整も大きな特徴の一つです。

極端に強すぎて紙が破れそうになったり、逆に弱すぎて文字がかすれたりすることがあります。

さらに、一つの文字の中でも筆圧にムラが生じやすい傾向があります。


これは、感覚調整の困難さや運動制御の特性が影響していると考えられます。

文字の完成度の変化

書き始めと終わりでは、文字の完成度に大きな差が出やすいという特徴があります。

多くの場合、書き始めは丁寧に書けているものの、途中から文字が乱れ始め、最後の方では判読が困難なほど崩れることもあります。


これは、注意力の持続の困難さに加えて、疲労の蓄積や意欲の低下が影響していると考えられます。

漢字の書字における特徴

漢字を書く際には、部首と他の部分のバランスが取れにくいという特徴が見られます。

また、細部の省略や、似た字との混同も起きやすい傾向にあります。


これは、視覚的記憶の特性や細部への注意の困難さが影響していると考えられます。

例えば、「校」という字を書く際に、木偏が極端に小さくなったり、逆に大きくなりすぎたりすることがあります。



さて、これらの特徴は、一人一人の子どもによって現れ方が異なります。

また、同じ子どもでも、体調や環境、課題の種類によって変化することがあります。


大切なのは、これらの特徴を「できない」「怠けている」としてとらえるのではなく、ADHDの特性として理解し、適切な支援を考えていくことです。

なぜそのような特徴が現れるのか

これらの特徴が現れる背景には、ADHDの特性が深く関わっています。

注意力の持続の困難さは、文字を書く際の集中力維持に大きく影響します。

細部への注意が途切れやすく、書き進めるうちに疲労が蓄積していくのです。


また、以下のように、衝動性の影響があるお子さんもおられます。

  1. 「早く終わらせたい」という気持ちが先行する
  2. 一つの文字を書き終える前に次の文字に進んでしまう
  3. 丁寧に書こうという意識が持続しにくい

さらに運動コントロールの面では、適切な力加減の調整が難しく、細かい手の動きのコントロールに苦労することが多いです。

また、姿勢の保持が困難な場合も少なくありません。

家庭でできるサポート方法

効果的なサポートを行うためには、まず環境整備から始めることが重要です。

具体的には、集中しやすい静かな場所の確保や、適切な机と椅子の高さの調整、十分な明るさの確保などが挙げられます。


なお、体に合った勉強机を選ぶ際のポイントについて、弊社代表で理学療法士の西村猛が執筆している記事も併せてご参照ください。

鉛筆を正しく持つことが難しいお子さんの場合は、以下の記事が参考になると思います。

道具の工夫

環境に加えて、使用する道具の選択も重要になります。

お子さんに合った道具(文房具など)を選んであげましょう。

  • マス目の大きいノートの使用
  • 握りやすい太さの鉛筆の選択
  • 滑りにくい下敷きの活用

練習方法については、段階的なアプローチが効果的です。

なぞり書きから始め、点線をなぞる練習を経て、徐々に補助線を減らしていくという流れがお勧めです。

ICT機器も活用し、視覚的なサポートも考慮してあげましょう

近年は、ICT機器の活用も有効な支援方法として注目されています。

タブレットでのノートの書き取り、音声入力ソフトの活用は、書字の負担を大きく軽減することができます。

ただし、これらのツールは授業内容に応じて使い分け、先生との事前相談を十分に行うことが重要です。


また、視覚的な情報を活用した学習方法も効果的です。

具体的には、

  1. 文字だけでなく、内容を図や表にする
  2. マインドマップの活用
  3. カラーコーディング(文字を色分けするなど)

などがあります。

これらの方法は、文字量を減らしながら必要な情報を効率的に記録することができます。

まとめ

ADHDのお子さんの書字の特徴は、その子どもならではの個性として理解することが大切です。

完璧な文字を目指すのではなく、「読める字」を書けることを当面の目標としましょう。

支援を行う際の重要なポイントは以下の通りです。

  1. 小さな進歩を認める
  2. 過度な要求を避ける
  3. 得意分野を活かす
  4. 必要に応じてICT機器を活用する

一つ一つの工夫を、お子さんの特性に合わせて取り入れてみてください。

最後に、最も大切なことをご紹介します。

それは、字を書くことは確かに重要なスキルですが、それ以上に大切なのは、お子さんの自己肯定感を育むことです。

「できた!」という成功体験を積み重ねることで、お子さんは自信を持って学習に取り組めるようになっていきます。

困ったことがありましたら、担任の先生や専門家に相談することをお勧めします。


寺子屋ゆずでは、講師と言語聴覚士が一緒に、お子さんの現況を評価し、お子さんに合わせた関わり方と勉強ペースを考えています。

お子さんの特性の評価や学習への取り組み方に悩まれているなら、一度寺子屋ゆずの体験授業を受けてみられてはいかがでしょうか。

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